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提言の記録



■「ヒグマの会」が発した要望書、提言、質問書


◆大雪山のヒグマ保存について◆1982年11月

大雪山高原沼及びヤンベタップ川流域に生息するヒグマの保存に関する要望について
北海道知事 堂垣内尚弘殿
昭和57年11月26日
ヒグマの会会長 中川 敏
 
北海道の自然を表徴する代表的動物であるヒグマは、とかく駆除か保存か議論の絶えない動物ですが、その実態は不明な点が多く、生息数はもちろん、その生態についても未だ十分に解明されていません。しかし、本道の自然の実態を把握する上からも、ヒグマの科学的実態調査は不可欠で、そのためには多角的かつ基礎的調査の蓄積が必要です。
 近年、大雪山ヒグマ調査会が大雪山高原沼一帯で4カ年間にわたり同一個体の生活史並びに諸行動について調査していますが、野生の同一個体をこのように永年にわたり調査した例は本道のヒグマ研究史上前例がなく、これらの資料は本道のヒグマの実態を探る上で貴重なものです。
 さらに、当該地域一帯の環境は地形、植生、気候等本道固有の多様な要因を包含しており、まさに本道の自然の縮図とも称すべき環境下にあります。しかも当該地域は広大なる大雪山地にあって、昔日よりヒグマが最も好む環境の一つであり、現在では全道的にも常時ヒグマの痕跡が見られる唯一の地域であるといっても過言ではありません。
このような環境下に生息するヒグマの生活史や諸行動を探ることは、本道のヒグマの実態を解明するうえで極めて貴重な資料となることは確実です。
従って、当該地域に生息するヒグマについては極力生存せしめるための方策を講ずるよう要望するものです。
以 上

 補足資料
1 当該地域をクマの生息適地として認知してやるべきである。特に国立公園あるいは国定公園の如き地域は自然の保存を図ることを優先すべきである。よって当該地域の如きクマの恒常的行動圏に遊歩道等を設置し、無制限に遊山者を入林せしめること自体望ましいことではない。
2 人身事故防止の観点から当該地域のクマを捕殺することは、自然の保存を図る上からも望ましいことではなく、事故防止を図る必要があれば、当該地域への入林を制限するぐらいの方策を講じてしかるべきであろう。
3 要するに、当該地域の自然行政の施策に当たっては、従来からの「ヒト」が主で「自然」が従とする施策を、「自然」を主とし「ヒト」を従とする如き発送の転換が特に必要であろう。そうしなければ、早晩本道固有の自然は失われていく事確実である。



◆北海道のヒグマ対策について◆2001年1月

ヒグマ対策に関する提言
 北海道知事 堀達也様
2001年1月21日
                ヒグマの会会長 金川弘司

 昨年の北海道内は、4月18日の白糠町での死亡事故をはじめ、ヒグマによる人身被害が相次ぎ、死亡3名重傷1名という痛ましい被害がありました。農作物などへの被害も各地で多発し、「最近は異常だ」という声は随所で聞きます。しかし、ヒグマの生息数が急増しているという科学的根拠は乏しく、むしろ個体群の存続が危ぶまれる状況が続く地域も一部にあります。
 個体数が急増していないにもかかわらず、事故や被害が続発するという、一見矛盾したように見える状況は、ヒグマの生息地、あるいは、人とヒグマのかかわりそのものに、重大な異変が起きていることを示すと考えられます。
 ヒグマによる事故は、ゴミなどに餌付いた「問題行動グマ」と適切な対応を心得ていない人との不幸な遭遇により発生しやすいことが、多くの事故分析から明らかになっています。昨春の事故も、多くはヒグマ個体と人間行動のどちらか、あるいは双方に問題がありました。事故防止には、本来のヒグマ生息地である自然林の再生が根本解決であることは勿論ですが、単に個体数を減らすだけの捕殺ではなく、科学的な合理性を持った野生動物管理と、一般市民への情報提供、教育が不可欠です。
 さらに、ヒグマの事故・被害の防止は、危機管理・防災対策とも共通し噴火、地震などと同等の位置付け、システム構築が必要であり、道はこの対策に全力で取り組む責務があります。
 また、北海道の自然の貴重な要素であるヒグマの存在をよく理解し、種を保全していくための基礎調査はきわめて重要です。従然からヒグマの生態調査や事故防止対策に取り組んでいる北海道の姿勢と関係者の努力に対しては、厚く敬意を表しますが、実行体制やその成果は、残念ながらまだ十分とは言えません。
 事故防止のためには、現場の詳細な調査と原因の徹底究明が不可欠ですが、昨年多発した事故では、道の専門研究職員が直ちにその実地調査に当たるような体制にはなっておらず、現場保存の処置も不十分でした。痛ましい事故を繰り返さないためにも、事故発生時の調査、および平時からの基礎調査、緊急対応を実行できる人員体制づくりが、何より求められます。
 従来のヒグマ対策が、ほとんどを「捕殺」に頼ってきたということは否めません。この明治以来の手法が限界に達し、単にクマの生息数を減らしても、必ずしも事故は減少せず、増加する場合さえあるという現実があります。九州や四国のように絶滅(寸前)にまで追い込めば被害はなくなりますが、その時には自然環境の豊かさ、多様性も同時に失うことになり、国内外からの激しい非難も浴びることでしょう。
すでに道は、捕獲奨励金や無差別の春グマ駆除制度を1990年に廃止するなど、賢明にも「絶滅政策」からの転換を進めつつあります。しかし、堀知事は議会答弁(2001年6月)の中で、道南地区において今春から、春季の「ヒグマ管理捕獲」を行う考えを示されました。
私たちは、狩猟・駆除をすべて否定するものではありませんが、全国でも先進的な野生動物マネジメントである「渡島半島地域ヒグマ保護管理計画」の中で、今回の春季捕獲が各種施策に比して突出し、その政策としての位置付けや科学的合理性、呉捕獲を防ぐ運用上の問題などが十分に検討されていないことに、強い危惧を抱きます。
 私たち「ヒグマの会」は、ヒグマに関心を寄せる幅広い市民の集まりであり、大学・研究機関の研究者や狩猟者、農業者ら、ヒグマをよく知る立場の人たちも参加しております。
 道民の生命財産を守るため、また北海道の貴重な自然環境を守るため、道がどのようなヒグマ対策や調査を行うことが必要なのか、また、政策を選択するにあたって留意していただきたい点をここに記し、提言書といたします。
 
@情報の収集と提供システムの構築、および早期教育
ヒグマの出没や農林業被害に関する情報は、現在では様々な機関に対する任意の報告や報道に委ねられており、統計的な収集や分析の対象としては信頼性に欠けています。どこで、何が起きているかが、きちんと把握できる情報収集の体制が必要です。
その一次情報を基に、専門家チームが現地で活動した結果は、速やかに道民に還元されるべきです。ヒグマの行動や問題の要因、予測、人間側がとるべき対応などを、住民や入林者に提供することが、短期的にも長期的にも事故防止となり、信頼感も向上します。道民にリアルタイムで情報を提供できるシステムが、早急に必要です。
不幸にして事故があった場合も、現場の詳細な調査を通じて、発生要因を究明し、続発を防ぎ、教訓を得る努力が必要です。現状では、道の専門職員がすぐに現場調査に当たることはできておりません。また原因調査が可能なように、研究職員との連絡・連携や、現場の状況保存、試料の確保など、原因調査を念頭に置いた警察等関係機関との調整も、今後の課題です。
一般市民向けには、すべての道民にクマに関する基礎知識や適切な対応の教育が必要であり、特に小学校などの早い段階で、ヒグマに対する「道民の常識」を育てることが有効です。副読本の制作・発行や教師への教育が必要です。
Aヒグマ対策のための専門家養成と組織化
ヒグマ対策は、平常からの調査活動や社会教育が必要なのは言うまでもありませんが、問題行動グマが発生してしまった場合は、追跡・追い払い・捕獲・捕殺などの個別対応が必要となります。迅速、確実にこれを行うため、現状では、専門家チームと狩猟者との連携  が欠かせません。
狩猟者は年々高齢化が進み、特にヒグマ捕獲ができるベテランは少なくなっています。柔軟かつ確実な対応をとるためにも、後継者育成をどうするのか、猟友会まかせではなく、公的スタッフが担うべきではないのか、という課題があります。最近、ハンター自身がヒグマ被害に遭うことが多いという事態は重く見るべきです。
調査や対策、教育プログラムを現場で担うのは、専門家チームです。事故や被害が起きた場合、即座に現地に向かい、原因や問題の所在を突き止め、対策を立案して、住民や利用者に情報提供する体制が欠かせません。地元自治体と連携し、住民に説明することで不安をなくし、無用の捕殺や事故を防げます。出没情報や農林業被害の段階で早めに対応することが、より深刻な被害や人身事故を防ぐことにつながります。
現実に道内の多くの地域で、異常出没に悩まされながらも、生態系保存との接点を探り、捕殺以外の手法を求めて、専門家の派遣や駐在を求める声が上がっています。
ヒグマの行動範囲や、国、市町村との役割分担、行政上の許認可権限などを考えると、専門家チームの中核は道が所管するのが適当と考えられます。チームを編成するための要員の養成・確保とその組織化、配置について、ただちに具体的に検討し、実行に移していく必要があります。
B地域保護管理計画
道がモデル的に策定した渡島半島地区ヒグマ保護管理計画は、長年の周到な調査のもと、現状では大変優れた計画だと評価できます。しかし野生生物保護管理の手法は地域ごとに異なり、まだ完全に確立されたものではなく、継続的なモニタリングや計画見直しが不可欠です。立案と実行が分離されてはなりません。
現状での道南における支庁や環境科学研究センターの活動は、少ない人員体制を考えると、研究面でも現場対応の面でも、よく機能していると評価できます。しかし個別の管理対応として、緊急有事対策を行う体制にはなっておりません。基礎調査を継続しつつ、市町村や各団体、住民とコミュニケーションを深め、問題があれば現地調査や緊急対策を行うなどの役割を、さらに十分果たせるよう、人員体制・予算の拡充が必要です。
また、こうした地域計画と人員体制を全道に広げていくことが、ヒグマ対策の基本方針となるべきです。
C「春季管理捕獲」への疑問
 かつての「春グマ駆除」は、見通しがよく歩きやすいうえ、足跡も追跡しやすい残雪期に、多数のハンターが奥山に入り、無線機やスノーモービルなどを駆使して、冬眠あけのヒグマを無差別に捕殺していました。生息数や性別、親子連れなども考慮されず、「獲りやすい時に獲る」という、いわば絶滅政策の最たるものでした。
 「春グマ駆除」は1990年に廃止されましたが、道内各地では自治体などから「出没が増えている」「被害が出た」などを理由に、再開を求める声が上がっています。しかし捕殺が事故防止に直結しないのは、これまでの事故分析からも明らかであり、むしろ出没原因の究明や、その対応を強化することが求められています。
 知事が表明した渡島半島での「春季管理捕獲」は、かつての「春グマ駆除」とは異なり、生息数などを把握したうえで、個体を特定して限定的に捕殺する、という説明です。しかし渡島半島の個体群が、あえて捕殺が必要なほど急速に数が増えているかどうかが明らかでないうえ、問題個体の特定が冬眠期間を過ぎてからできるとは考えにくい状況です。春季捕獲は生息数の相対的コントロールには有効でも、個体を特定して排除する管理に適しているかどうかは、はなはだ疑問です。
 渡島半島は生息数抑制が必要な現状にあるのでしょうか。また「管理捕獲」は、どのような人員体制により実施されるのでしょうか。「管理捕獲」のルールを捕獲従事者が遵守し、過剰・過誤捕獲を防ぐ体制はあるのでしょうか。
 ヒグマはワシントン条約の付属書Uに掲載され、国際取引の制約を受けています。国際的な問題となっているクマの胆(胆嚢)の流通についても、十分な管理はなされるでしょうか。現状での「管理捕獲」に対する疑問。懸念は多くあります。
 保護管理計画の一手法としての春季捕獲を必ずしも否定しませんが、ようやく動き出した保護管理計画の中で、今春からの「春季捕獲」はいかにも唐突です。どのような現状把握や必要性のもとで、今春実施という答えが導き出されたのか、道は明快な説明をすべきです。このままでは「春グマ駆除をやめたからクマが増え、それをまた解禁する」という、現実と異なり科学的根拠もない通説に政策が追随することになります。
 折角の保護管理計画が、この部分で後退し、十分な超さデータのない他の地区も含め、全道に春グマ駆除が復活するようなことになれば、大きな問題です。たとえ「限定的」ではあっても、春季捕獲は政策的には大きな焦点であり、道は説明責任を十分に果たすべきです。


◆春季管理捕獲について◆2001年3月

「春季管理捕獲の問題点」に関する道への質問(01年3月18日)

@ 3月21日から始まるヒグマの「春季管理捕獲」実行に当たって、捕獲が適切に行われているか、具体的な監視体制はどのようになっていますか。
A 各地域の捕獲割り当て頭数、捕獲体制の人数など詳細はどうなっていますか。
B ヒグマ対策の要は、人の食べ物に餌付くなど、問題行動グマの個体管理です。今回の春季捕獲のような山間部での無差別捕獲が、本当に被害事故防止になるとお考えですか。
C オス、メス、大きさなどを見分ける基準として「足跡前掌幅13a」とありますが、春の融雪期の足跡はすぐ2、3a広がり、それだけで100キロ近くもの体重変化になります。このような、実際には不可能に近い基準値を示しても実行できるとは考えられませんが、どのようにするつもりでしょうか。また捕殺するハンターへの研修や教育訓練を行いましたか。本当に識別できて、方針通りに実行できるとお考えですか。
D オスの捕獲頭数を39頭と年間平均捕獲頭数を示していますが、そもそも推定生息数から見て、この数は妥当なのでしょうか。もし事故や被害が出た場合、どうするつもりでしょうか。
E 実際に管理捕獲ができる体制が整っているのでしょうか。捕獲数を導く根拠にしても、それぞれの捕獲地域による詳細な捕獲頭数や性比などの提示がなく、根拠があまりにも大雑把で、とても管理捕獲といえるものではないと考えられますが、本当の管理捕獲ができるハンターはもとより、調査研究、管理体制の人員数、予算などが相当不足しているのではないでしょうか。これで実行できる体制とお考えですか。
Fオスは遺伝子の多様性を確保するため重要であり、繁殖数のみの考察では不備です。渡島半島は孤立個体群という位置付けですが、遺伝子の多様性管理の認識はありますか。
G 世界的にクマの胆の商業的流通に厳しい目が向けられていますが、道はどのように管理監督する予定でしょうか。
H 捕獲された個体の登録や調査はどのような体制で行いますか。
I もし捕獲従事者が実施方針に違反した場合は、どう対処しますか。また、そのための研修や指導は事前にしていますか。
J 現地での調査結果、捕獲されたクマの調査結果、適正に実行できたかなどの結果や今後の見通しなど、実施調査報告を公表する予定がありますか。
K 春の管理捕獲で本当に被害防止や事故防止ができるとお考えですか。もしそうでないとすれば、具体的に道は本年度、何を行う予定ですか。



◆03年北海道知事選候補への公開質問と回答◆2003年3月

【公開質問書】

 私たち「ヒグマの会」は、人間生活と深いかかわりを持つヒグマと、その生息を支える自然に関心を寄せる研究者、ハンターや北海道の自然を愛する会員たち約300人で作る道民有志の会です。今から24年前の昭和54年に発足し、ヒグマに関する調査・研究、機関誌やニュースレターの発行、フォーラム開催などを通じて、ヒグマに関する知識の普及や啓発、提言などを続けて参りました。
 かつてヒグマは長い間、道により有害獣として絶滅政策がとられていましたが、昭和63年の道議会の知事答弁により「ヒグマは北海道の豊かな自然の象徴である」と位置付けられ、駆除から保護へと180度の転換がなされました。
 ヒグマは、北海道の野生動物や生態系の頂点にあり、豊かな自然の中にしか生息できない動物で、自然の豊かさを反映する「指標動物」とされています。ヒグマが生息できる自然環境は、北海道にとって誇るべき財産でもあります。
 私たちのヒグマに関する調査・研究では、生息数の維持どころか、個体群の存続そのものが危ぶまれる地域もありますが、しかし、ヒグマによる人身事故や農作物被害が起きていることも事実です。このことはヒグマの生息地、あるいは人とヒグマのかかわりそのものに、重大な異変が起きていることを示していると考え、昨年1月、北海道知事に具体的な案(渡島半島で行われているヒグマの春季管理捕獲など)を提出いたしました。
 そこで21世紀の道政のリーダーをめざして知事選に立候補される方々が、ヒグマに象徴される「北海道の自然」につきまして、どのような基本姿勢と具体的政策をお持ちなのかをお尋ねしたく、この文書をご送付させて頂く次第であります。
 選挙の告示を控えられ、ご多忙を極めておられることは重々承知しておりますが、以下の質問にお答え頂けるよう、心から期待しております。
 まことに勝手ながら、3月31日までにご回答くださるよう、お願い申し上げます。
 なおご回答は、私ども会員は勿論のこと、メディアなどを通じて公表させて頂きたく思っておりますので、ご了解を重ねてお願い申し上げます。

 質問1【自然環境政策】 「ヒグマの棲める自然」は北海道の重要な財産と思いますが、北海道の森林や野生動物を含めた豊かな自然について、どのような政策をお考えでしょうか。
 質問2【ヒグマ政策】 人間とヒグマとの共生を図るというこれまでの北海道の方針を、今後変更するつもりはありますか? もし変更するならばその理由と、どのようにするか、具体的にご回答ください。
 質問3【問題解決】 北海道における人間社会とヒグマとの問題を解決するにあたり、何が最も重要とお考えですか? 北海道としてどのように取り組むか、具体的にご回答ください。
 質問4【春グマ、コリドー】 最近注目されている春グマの管理捕獲問題と、勇払原野で確認された道央部と道南西部をつなぐ野生動物のコリドー(渡り廊下)の保全運動について、あなたはどのような政策をお考えですか?

【回答】

▽自然環境政策
酒井氏 豊かな自然は、われわれのみならず、後世への財産であり、日本人全体の財産でもあると考えています。
 磯田氏 未来への財産である自然環境を守り、失われた自然を再生・復元する「希望の島トラスト」創設、森・川・海を再生させる「流域環境会議」創設、過剰利用で損なわれた山岳環境再生を行う。
若山氏 環境保全は「破壊しない」ことと、「回復」「保全」が重要。森林保護のため、技術の継承と人員確保に取り組み、日高横断道路などは中止。日高や大雪山、知床を世界遺産に推薦する。
伊東氏 環境立国、自立の北海道が基本政策であり、生態系を破壊する公共事業は縮減、凍結、再検討する。森林再生のため、構造改革特区法を利用し、北海道を自然再生特区としたい。
高橋氏 北海道環境基本計画を継承していきたい。
鉢呂氏 開拓や開発が与えた影響は大きい。人の営みが環境に与える負荷を認識し、軽減させながら、次代に引き継ぐ環境の保全再生に取り組む。
上野氏 貴重な財産である「ヒグマの棲める自然」を守る責務があり、環境保全のための税、要員育成を、市町村と連携し行う。
▽ヒグマ政策
 酒井氏 人間とヒグマの共生を図るというこれまでの北海道の方針を、変更するつもりはない。
 磯田氏 野生動物との共生は、環境重視型社会の重要な理念であり、変更はしない。
 若山氏 変更しない。
 伊東氏 変更するつもりはない。
 高橋氏 今後とも継承していく。
 鉢呂氏 変更しない。住民の生活圏と野生動物の生息域が重なる大変さは実感しているが、豊かな自然の象徴であるヒグマと人間の共生は大事だ。
 上野氏 変更するつもりはない。
▽問題解決
酒井氏 冬眠期間中の狩猟・駆除の全面禁止、春の山菜採りの入山制限、電気牧柵の設置増、道路横断用の地下通路増設。
磯田氏 生息実態をしっかりと把握し、適切な保護管理を行うことが重要で、地域実態に合った対応を進める。
若山氏 観光重視はオーバーユースを招きかねず、一部地域の立ち入り制限も必要。人間側の啓発やキャンプ地の自衛策など、ヒグマとの共生を目指す政策を実施する。
伊東氏 野生動物の環境を整えることが、人間と動物のエリアの共生につながる。住み分けを図っていくべきである。
高橋氏 共生を図るため、「北海道環境基本計画」を衆知徹底することが重要。
鉢呂氏 重要なのは、人間にとっての危険回避。駆除だけに頼らず、生息域を確保しつつ、研究や啓発が必要。
上野氏 人間社会とヒグマの生活圏の分離が必要。知識の啓蒙によって、ヒグマによる生活圏侵害や被害発生を減らせる。
▽春グマ、コリドー
 酒井氏 春グマ駆除は、管理捕獲といえども原則やめるべき。コリドー保全は緊急課題で、オタルマップ川の湿原や森林買取は最低必要だ。
 磯田氏 野生生物が自由に行き交える、大規模なグリーンベルトの形成に努める。
 若山氏 捕獲だけが先行しないよう、総合対策が必要。コリドー保全をはじめ、「ヒグマが棲んでいる意味を考える」教育や、科学調査を進める。
 伊東氏 森林保全を目的とする道独自の森林環境税を導入し、保全事業に充当する。
 高橋氏 保護管理計画の効果を検証する必要がある。森作り基本計画の「緑の回廊」構想を継承する。
 鉢呂氏 管理捕獲の頭数管理はさらなる検証が必要。コリドーは、開発事業に自然保全をいかに組み込むか、今後検討する。
 上野氏 コリドー保全は、ヒグマの生息圏を維持する重要な課題。関係者の意見を聞き、調査を行って、効果的な対策を打ち出したい。




◆胆振・日高のコリドーについて◆2004年9月

胆振地方と日高地方を結ぶ野生動物のためのコリドー保全に関する要望
 関係各位殿

 ヒグマの会は、道内外に在住する一般市民、研究者、ハンター、行政関係者、マスコミ関係者などを中心メンバーとして、ヒグマによる事故を防ぎ、人間とヒグマの共生を図るための各種活動を行っているNGOです。
 そのメンバーの数名が、1966年に勇払原野の中心部(苫小牧東部開発エリア内)で1頭の大きなオスグマ(186s・当時)を学術捕獲し、以来4年間にわたって追跡を行いました。その結果多くの驚くべき新しい事実が確認されました。それらは例えば
@ 調査個体は東は白老台地から、西は穂別町道有林までの間を往来しており、その移動距離は直線で75qにもおよぶこと
A この東西両地域の間には、北海道で最も開発の進んだ石狩低地帯が位置するが、調査個体は、同低地帯の南端部(ウトナイ湖付近)にかろうじて残された緑地帯を縫うようにして往来していたこと
B その低地帯を南北に縦断する道央自動車道は、人がほとんど使わないアンダーパスを、国道36号は両側まで森林が残されたわずかな地点を選んで、主に夜間横断していたこと
C 調査個体は、この地域間を複数回往来していたが、この間誰にも目撃されず、またなんらの問題も起こしていないこと
D これらのことから、道央自動車道からウトナイ湖周辺を経て、早来町、厚真町、穂別町につながる緑地帯は、ヒグマや他の野生動物が胆振、日高両地域間を安全に往来することの出来る唯一のコリドー(回廊)となっていることなどであります。
 しかし、現在このコリドー周辺は各地で開発が進み、その分断の危機にあります。特に国道36号に沿った緑地帯の一部は、準工業地帯へ指定転換されたこともあり、近年同緑地帯の分譲、開発が急速に進んできています。それらの地点では森林が国道ぎわから大きく後退するため、奇跡的に残されたコリドーがまさに分断の危機に瀕しています。
これ以上の分断を防ぎ、後世にわたる道南地域と道東地域間の野生動物の往来の確保と、人間と野生動物の共存のためにも、この緑地帯を保全して下さることを要望いたします。

2004年9月19日
ヒグマの会
ヒグマフォーラム・イン・苫小牧参加者一同



◆07年北海道知事選候補への公開質問と回答◆2007年3月

【質問要旨】
 本州では昨年、ツキノワグマの大量出没と捕殺、多くの人身事故が2004年に続いて発生し、大きな社会問題となりました。北海道のヒグマについても同様なことが起き得ると専門家は指摘しています。
 北海道は野生動物の専門職員を擁し、渡島半島ヒグマ保護管理計画モデル事業を実施するなど、先駆的な取り組みをされていますが、地域に大きな不安を与える人里への侵入や被害防止対策という点では、まだ十分とは言えません。必要な知識や情報を得られない市町村職員が手探りの対応に追われ、対策として有効とは限らない駆除(捕殺)に頼っているのが現状です。
 ヒグマの問題は対応を誤ると、北海道の基幹産業である農業や観光業に大きな打撃と、地域社会に不安を与える要素となります。一方で、北海道の豊かな自然の象徴であるヒグマとどう付き合うかは、地域の加太であると同時に、道民全体の環境意識や価値観にもかかわります。
 ヒグマに限らず、外来種も含めた野生動物の問題は、多くが人間社会の対応と切り離しては考えられません。手の施しようのない「天災」ではなく、科学的な分析に基づく対処が可能です。その解決には現場で問題点を見つけ出し、住民の実情に沿って対策を考える専門知識と技術を持った人材が必要です。
 大量出没の背景には、過疎化などでクマが人里に出やすくなり、人間の生活圏で餌をとることを学習した問題個体の増加が考えられます。出没原因を調べ、生ゴミなどの誘引物の除去や農・畜産物の防除を徹底し、問題個体の発生を予防することが最も重要です。
 本州では現地で調査し、対策を地元と一緒に考える専門員を配置する県が増えています。例えば兵庫県では、新年度から6人の研究職員と27人の野生動物専門員によるマネジメントシステムを発足させます。
 北海道では00年以降、年平均400頭以上のヒグマを被害防除として捕殺していますが、駆除の原因調査や再発防止の組織的対応は行われていません。現場での本質的な解決策を行う担い手が不在だからです。このことはエゾシカやアライグマによる農林被害においても同様です。北海道から出されている「本道における野生鳥獣管理のありかた検討報告書」でも、このことが指摘されています。
 「やるべきことは見えてきた。だが、担い手不在のためその実現が足踏みしている」というのが、私たちヒグマの会の実感です。
 そこで、基本的かつ緊急課題である以下4点に絞って、お考えをお伺いいたします。ご多忙とは存じますが、率直なお考えをお聞かせ下さい。
 質問@ 北海道にとってヒグマはどのような存在だとお考えでしょうか。
 質問A ヒグマによる被害とその防止策の実施、調査研究の強化について具体的にお聞かせ下さい。
 質問B ヒグマをはじめとする野生動物の保護管理を現場で担う、専門知識と技術を持った道職員の育成と配置を行うお考えがありますか。
 質問C 野生動物の保全は、生息域の分断防止が重要です。北海道のヒグマは、道央と道南西部をつなぐ、石狩低地帯南部の移動回廊がその生命線として重要です。とりわけ、勇払原野の国道36号沿いでは開発が進み、林地が失われて分断の危機が高まっています。この対策に北海道はどのような施策をとりうるのか、お聞かせ下さい。

【回答】
▽高橋はるみ氏
@ ヒグマは北海道の豊かな自然を象徴する動物である。しかし、人命や農業に被害を及ぼすこともあることから、適正な保護管理を図ることが必要と考える。
A 農地への侵入防止対策としてその有効性が認められている、電気柵の普及に努めたい。また、ヒグマの適正な保護管理を図るために、分布状況や生態調査など生息実態の把握に取り組む。
B 専門家の意見も聞きながら人間と野生動物の共存が図られるよう、市町村とも連携して対応したい。
C 勇払原野を含め各地の国有林、道有林では、動植物の生態系を守る貴重な保護林をつなぐことにより、生き物が自由に行き来できる「緑の回廊」づくりを進めている。このような取り組みと連携した野生動物の生息地保護について、研究していきたい。
▽荒井聰氏
@ ヒグマは日本では北海道だけに生息していて、陸上では国内最大の野生動物です。このヒグマが生息できるということは、それだけ北海道の自然が豊かであることの証であり、北海道の自然環境の象徴です。
A ヒグマと人の共生は重要と考えています。その共生は、自然に対して、緊張感を持って敬うことであるべきです。人にとっての危険性の回避を、駆除による排除だけに短絡するのではなく、生息域の保全への取り組み、回避策の道民への啓発を進めるべきです。また、林業や電力等の関係者の協力を得ながら、ヒグマの生息状況等を充実させるべきです。
B 行政における野生動物との対応は、人への危険性回避、農林水産業への被害防止の観点で進められてきました。自然環境の保全への対応は十分ではありません。しかも、行財政改革への圧力によって、道においても軽視されがちな現状にあると考えています。また、道は現場から離れる傾向を強めてもおります。兵庫県等より先行していたはずの、道の自然環境保護管理への取り組みを再強化するために、人材の確保、育成を進め、現場に配慮していきたいと考えます。
C 勇払原野のコリドーは、苫小牧東部開発が思うように進まなかったことで、かろうじて保全されてきた面があります。千歳空港や苫小牧港の道内産業における比重が、あらためて高まりつつありますから、これまでの成り行き任せでない保全策が必要です。道としても、広葉樹林の保全・復元、道路・空港整備や工業用地開発への保全対策等に取り組めるはずです。
▽宮内聡氏
@ 北海道にとってヒグマは最大の野生動物であり、先住民族のアイヌはヒグマを「神」として崇拝し、日常的にも北海道最大の野生動物として大きな存在感をもっています。ヒグマと人間社会との共存は、知床が世界自然遺産に指定された今、その対応は大きな検討課題となっています。
A 養蜂業者の被害、人間社会に対する接近などを防ぐため、周辺に有刺鉄線の柵を作る。また短期間の課題として電柵の設置の検討も考えられる。
B 道や市町村に、ヒグマ生態系を専門に研究する研究職員の育成も大切です。人間社会とヒグマ社会との関連などを、日常的に分析する試験研究機関の充実が緊急の課題となっている。
C 石狩南部のヒグマの移動回廊は、ヒグマの生態保存から極めて重要な課題。苫小牧東部工業地区の広範な林地は、自然公園として保存するとともに、南部の弁天地区も保存地域として指定を図る。また樽前山国有林、北大演習林、支笏湖、千歳、恵庭などの国有林の「ヒグマ保存地区指定」を検討する。ドングリ、ミズナラなどを増やし、ヤマブドウ、コクワなど蔓の伐採をやめるなども検討する。



◆07年札幌市長選候補者への公開質問と回答◆2007年3月

質問と回答(回答は上田文雄氏のみ)

質問1 札幌市にとってヒグマはどのような存在だとお考えですか。
▽上田氏 札幌市を含む石狩西部地域のヒグマ個体群は、環境省のレッドリストで「絶滅の恐れのある地域個体群」に指定されている。北海道でも保護管理の対象動物として共存を目指している。その精神を尊重し対応している。
質問2 ヒグマ対策を迅速、的確に行うためにどのような政策をお考えか、具体的にお答え下さい。
▽上田氏 「追い払い」を基本に対応しており、捕獲は@人間に威嚇や攻撃したA農作物や家畜への顕著な食害があり、その後も被害拡大を及ぼす可能性が高いB人間を恐れる度合いが非常に低く、人前にたびたび姿を見せたり、人間に接近してくるC農産廃棄物や生ゴミ・残飯などに餌付くなど、人為的な食物に条件付けられていると思われるヒグマに限定している。
 昨年の西区西野地区の問題ヒグマ駆除を受け、ヒグマ生息域と市街地が非常に接近している地区には、市民への啓発活動や必要に応じたパトロールを行った。今後、専門家の意見を聞きながら、地域住民とともに市街地接近を防ぐ防除対策に取り組んでいきたい。
 質問3 縦割り行政の弊害を排し、専門家を加えたヒグマ対策協議会を発足させ、出没の予防、出没した場合の対策判断とその実行にあたる考えはありませんか。
▽上田氏 関係部局職員で構成する「札幌市ヒグマ対策委員会」で長期的・総合的な対策と、追い払い、駆除などを決定し、必要に応じ警察など関係機関や猟友会札幌支部、道環境科学研究センターなどの専門家と連携し、協議、調整をしている。

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